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温水洗浄便座

温水洗浄便座の吐水中の微生物濃度に及ぼす吐水ノズルの清浄性の影響

研究名: 温水洗浄便座の吐水中の微生物濃度に及ぼす吐水ノズルの清浄性の影響
研究機関: 北里大学、慶應義塾大学
研究代表者  慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学名誉教授 大前 和幸
実施責任者  北里大学医療衛生学部講師 伊与 亨
研究協力者  東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野准教授 朝倉 敬子
目的: 「温水洗浄便座の吐水に関する微生物学的実態調査研究」では、はじめに大学キャンパス内トイレの温水洗浄便座127基の衛生状態について断面的調査を実施した(2015年7月受理論文)。そのうちの13基で継続して長期間にわたる縦断的な調査研究として、微生物指標の挙動および緑膿菌の由来等、温水洗浄便座の適切な微生物学的評価を行ったところ、温水洗浄便座の吐水の微生物水準は、総括的な衛生的安全性が維持されていることが示された(2017年10月受理論文)。そして今回、さらなる微生物汚染の可能性を判断するために、ノズルの汚れに着目した三つの調査を行った。
  モデル実験:吐水ノズルから加温装置(貯湯タンク)への細菌の遡上の可能性評価
  調査A:吐水中の微生物濃度に及ぼす吐水ノズル表面の清浄度の影響
  調査B:吐水の使用開始から終了までの吐水中の微生物濃度の変動に関する調査
《モデル実験》
方法: 摸擬糞便(人工糞便)で吐水ノズル表面を現実では有り得ない細菌濃度と頻度で毎日強制的に汚染させた状況下でのモデル実験
摸擬糞便:蒸留水にトイレットペーパーを混ぜた溶液に、緑膿菌と大腸菌の培養液(濃度 108 CFU/mL
     以上)を加えて調整。
便座:実験室に設置された3基の貯湯式温水洗浄便座
   条件Ⅰ(ノズル自動洗浄なし 汚染あり)、条件Ⅱ(ノズル自動洗浄あり 汚染あり)、
   対照(ノズル自動洗浄あり 汚染なし)
吐水:朝、昼、夕の1日3回、吐水量は350~400mL/回 強制的な汚染を毎日のお昼の吐水前に実施、
   採水を朝に実施した。
実験期間:約200日
評価:ノズルや本体を分解して水路の8箇所を拭き取り検査を行い、細菌汚染の有無を確認した。
結果: 各条件の温水洗浄便座において緑膿菌及び大腸菌が吐水ノズルから貯湯タンクに遡上することは認められなかった。
《調査A》
方法: 瞬間式温水洗浄便座3基を用いて、吐水ノズル表面の清掃効果について、生菌数(TVC)と従属栄養細菌数(HPC)を指標として指定清掃/通常清掃の比較を短期的に調査した。
指定清掃条件:平日1日1回、マイクロファイバークロスで吐水ノズルの表面を拭き取り清掃するととも
       に、通常のトイレ清掃を行った。
       清掃2a(2019年7月12日~7月25日)、清掃2b(2019年8月22日~9月14日)
通常清掃条件:吐水ノズル表面の拭き取り清掃を行わず、通常のトイレ清掃のみを行った。
       ただし、平日1日1回、吐水ノズル表面の目視確認を実施、汚れがある場合は拭き取り
       清掃を行った。
       対照2(2019年8月1日~8月8日)
結果: 水温と残留塩素濃度の変動が低い時期にノズル清掃の二つの条件で比較した本短期調査から、生菌数(TVC)は対照試験である通常清掃条件と比べて、指定清掃条件(清掃2b)が統計学的に有意に少なかった。
《調査B》
方法: 吐水の使用開始から終了まで、吐水約500mLを5分画もしくは20分画に分けて連続採水し、微生物濃度の変動を残留塩素、全有機炭素(TOC)、生菌数(TVC)、従属栄養細菌数(HPC)について調査した(瞬間式3基)。
結果: 5分画に分けた吐水試料では、それぞれの残留塩素(mg/L)および全有機炭素 (mg/L)は同じであったが、生菌数 (CFU/mL)と従属栄養細菌数 (CFU/mL)は減少する傾向が示された。20分画における調査では、従属栄養細菌数が分画1から4で急激に低下し、その後分画20まではほぼ一定となった。
《モデル実験、調査A、調査Bのまとめ》
今回のモデル実験では、吐水ノズルから温水洗浄便座の貯湯タンクへの微生物の遡上は認められなかった。瞬間式の温水洗浄便座もそのノズル構造が類似していることから、瞬間式温水洗浄便座の加温装置まで糞便細菌が移動する可能性は極めて低いと推察された。調査Aに基づく研究では、吐水ノズル表面を毎日清掃することにより噴霧水中の細菌数は減少する結果となった。また調査Bでは、吐水の連続吐出によりノズル孔周辺やノズル内の細菌は洗い流されることがわかった。以前の研究結果を裏付けるように、糞便指標細菌は、大学キャンパスにある温水洗浄便座の吐水にはほとんど存在しなかった。これらのことから、日常的な清掃によってノズルの清浄性を保つことで、温水洗浄便座が適切に維持管理されることが示唆された。
掲載: 学術論文はBiocontrol Science Volume 27 Issue 3 Sep. 2022:153-162に掲載
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