<温水洗浄便座の使用と早産に関する研究>
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妊婦における温水洗浄便座の使用が早産および膣内細菌叢に与える影響(2013年3月受理)
一つ目は、妊娠中の温水洗浄便座使用が、その妊婦さんの膣内細菌叢(そう)に影響するか、また早産の原因となるかを検討した研究です1)。女性の膣内には、ラクトバチルス属を主とする細菌がいわゆる”善玉菌”として存在します。こういった細菌の集団を「細菌叢(そう)」と言い、良い状態に保たれていれば、感染症の原因になる細菌や真菌(カビの仲間)が増えるのを抑えてくれます。温水洗浄便座で女性が局部を洗うと膣内の善玉菌を洗い流してしまい、結果として悪玉菌が増えるのか(この状態は細菌性膣症と言われます)、さらにその結果として妊娠中の女性では早産が多くなるのかを調べました。
2006-2010年に都内のある大学病院で出産した20歳以上の女性(2545名、うち355名は住所が変わっていて連絡できず)を対象に、妊娠中の温水洗浄便座使用およびその他の生活習慣を尋ねる質問票を郵送しました。妊娠・出産経過や膣分泌物の細菌検査結果はカルテから情報を得ました。1404名から返送があり、そのうち十分な記述があった1293名のデータを使って温水洗浄便座の使用と早産の関係を調べました。また、温水洗浄便座の使用と細菌性膣症の有無の関係は、細菌検査結果のあった1126名で調べました。
妊娠直前~妊娠中に温水洗浄便座を使っていた人は全体の63.3%でした。早産(妊娠37週未満の出産)は解析対象者全体の15.8%でした。(※大学病院で出産される方は何らかの病気を抱えている場合もあり、早産率は通常(5.7%:2009年人口動態統計)より高くなっています。)さらに、早産率を温水洗浄便座を使っていた人たち(使用者)と使っていなかった人たち(非使用者)で分けて考えると、使用者の早産率は15.8%、非使用者では16.0%で、使用者と非使用者のさまざまな違いを同時に考慮しても、早産率に違いはありませんでした。
■温水洗浄便座使用と早産の関連
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正期産 (妊娠37週以降の出産) |
早産 (妊娠37週未満の出産) |
合計 |
便座使用なし |
398人(84.0%) |
76人(16.0%) |
474人 |
便座使用あり |
690人(84.3%) |
129人(15.8%) |
819人 |
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1293人 |
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妊婦における温水洗浄便座の使用が早産および膣内細菌叢に与える影響(2013年3月受理) 表とグラフ
細菌検査の結果から細菌性膣症の状態であると判断された人の割合は、使用者で20.3%、非使用者で20.7%であり、温水洗浄便座使用と細菌性膣症とのあいだに関連があるとは言えませんでした。一方、膣内から真菌(主にカンジダ属)が見つかった人の割合は、使用者で15.6%、非使用者で12.1%と使用者で高いという結果でした。しかし、妊娠中に真菌の治療薬が処方された人の割合は使用者で6.4%、非使用者で5.7%であり、差はありませんでした。カンジダは常在菌といって、健康な人の体からも見つかる真菌です。妊娠中に温水洗浄便座を使っていると、検査でカンジダが見つかる可能性が高くなるかもしれませんが、治療しないといけないほどにはならないのだろうと考えられます。
まとめると、妊娠中に温水洗浄便座を使っても使わなくても、早産となる割合に違いはありませんでした。細菌性膣症と判断される割合にも違いはありませんでした。真菌(カンジダ)が見つかる可能性は温水洗浄便座の使用者で多かったですが、治療を必要とした人の割合に違いはありませんでした。この研究の対象者は大学病院で出産された方で、一般の妊婦さんよりも合併症のある方などを多く含みます。そういった、周囲の環境の影響をより受けやすいと考えられる妊婦さんでも早産率などに違いがなかったということは、一般の妊婦さんでも結果は同じであろうと予想されます。
<温水洗浄便座の使用と痔・泌尿生殖器感染症
に関する研究>
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温水洗浄便座の使用と痔疾、泌尿生殖器感染症との関係:3年間追跡web調査(2018年2月受理)
二つ目は、一般の人たちにおいて、温水洗浄便座使用と痔(男女)、泌尿生殖器感染症(女性のみ)の発症に関係があるかどうかを検討した研究です2)。温水洗浄便座はボタンを押すだけで手軽に局部を洗うことができるため、洗い過ぎによる健康問題が起こらないかどうかは気になるところです。この研究では、Web調査会社の登録者から無作為に選ばれた10305人(20歳以上80歳未満の男女)を対象に、2013年にインターネット調査を行いました。質問票では、温水洗浄便座の使用頻度、および、痔や泌尿生殖器感染症(ぼうこう炎、腎盂腎炎、カンジダ膣炎、細菌性膣症)と医師に診断されたことがあるかどうか、またそれらの病気でおこりうる自覚症状があったかどうかを尋ねました。さらに、2016年に再度調査を行い、2013年から2016年の3年間に、痔および肛門周囲のかゆみ(男女)、泌尿生殖器感染症および外陰部掻痒(そうよう)症(かゆみ)(女性のみ)の診断または自覚症状があったかどうかを尋ねました。
2013年と2016年の調査の両方に参加し、分析の対象になったのは7759人でした。そのうち、習慣的に温水洗浄便座を使用していた人は、男性で51.8%、女性で48.5%でした。過去に痔になったことのある人は男女とも温水洗浄便座使用者で多かったですが、調査で経過観察を行った3年間に新たに痔と診断されたり、痔の自覚症状が出現したりした人の割合は使用者と非使用者の間で違いはありませんでした。一方、肛門周囲のかゆみ(自覚症状)の、追跡期間中の新たな出現は、男性において温水洗浄便座使用者で多いという結果でした(女性では違いなし)。女性のみで検討された泌尿生殖器感染症や婦人科系の病気のうちでは、過去に膀胱炎、カンジダ膣炎と診断された経験のある人は温水洗浄便座使用者で多いという結果でした。しかし、追跡期間3年間のうちにこれらの病気を新たに診断された、もしくは自覚した人の割合は、温水洗浄便座使用者でも非使用者でも違いはありませんでした。
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温水洗浄便座の使用と痔疾、泌尿生殖器感染症との関係:3年間追跡web調査(2018年2月受理) グラフ
過去に痔のあった人や泌尿生殖器感染症を経験した人が温水洗浄便座の使用者で多かったという結果は、因果の逆転という現象を見ている可能性があります。つまり、温水洗浄便座を使ったから痔や泌尿生殖器感染症になったのではなく、痔や泌尿生殖器感染症があったために温水洗浄便座の使用をしている、ということです。一方で、3年間の追跡期間中の新たな病気の出現は、検討したほとんどの病気・症状について温水洗浄便座を使っていても、増えることも減ることもありませんでした。一つだけ、男性では、温水洗浄便座使用者の中で新たに肛門周囲のかゆみを自覚された方が多かったので、洗い過ぎ、あるいは排便を促すなどの手段としての温水洗浄便座の使用には気を付ける必要があるかもしれません。