温水洗浄便座の使用と痔疾、泌尿生殖器感染症との関係:3年間追跡web調査
温水洗浄便座の使用と痔疾、泌尿生殖器感染症との関係:3年間追跡web調査
慶應義塾大学
研究代表者
慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学名誉教授
大前 和幸
研究責任者
東邦大学医学部社会医学講座衛生学分野准教授
朝倉 敬子
温水洗浄便座の使用と痔疾および泌尿生殖器感染症の関係について調査する
web調査会社登録約100万人の中からランダムに抽出された10,305名を対象に2013年2月 ベースライン調査を実施。その後、1年後追跡調査(2014年2月)、3年後追跡調査(2016年2月)を実施し、3年間の時間縦断的調査を行なった。調査では自記式質問票を用い、温水洗浄便座の使用状況に加え、痔疾、肛門周囲の搔痒感、膀胱炎、腎盂腎炎、カンジダ腟炎、細菌性腟炎、外陰部搔痒症の診断と症状の自覚について質問し、温水洗浄便座の使用との関連を検討した。膀胱炎以下の疾患については、女性のみから回答を得た。統計解析には、ポアソン回帰分析を用いた。
ベースライン調査と追跡調査に参加し、有効回答を得られた解析対象者数は7759名であった。温水洗浄便座使用者は3,889名(全対象者中50.1%)、非使用者は3,870名(49.9%)であり、使用者の割合は、男性で51.8%、女性で48.5%であった。痔疾の診断、痔疾の自覚、肛門周囲の搔痒感自覚について、全ての既往リスク比は、使用者において既往者の割合が有意に高いことを示した。一方、新規発症に関しては、交絡因子調整後の新規発症リスク比が肛門周囲搔痒感においてのみ、男性使用者で症状の新規自覚者が有意に多いことを示した。(リスク比1.36、95%信頼区間 (1.06-1.75)) その他の新規発症リスク比は使用者・非使用者間の有意差を示さなかった。
女性の泌尿生殖器感染症に関する解析では、膀胱炎については診断・自覚とも使用者で調整既往リスク比が1よりも有意に高かったが(診断 1.20 (1.09-1.33)、自覚 1.18 (1.08-1.29))、新規発症リスク比は、使用者・非使用者間の有意差を示さなかった。腎盂腎炎の粗既往リスク比(診断、自覚ともに)は使用者において既往者の割合が有意に高いことを示したが、交絡因子の調整を行うと使用者・非使用者間の有意差は認められなくなった。腎盂腎炎の新規発症と温水洗浄便座の使用には関連は認められなかった。カンジダ腟炎の診断、自覚に関しても、使用者においてカンジダ腟炎の既往が有意に多いことを調整既往リスク比が示したが、調整新規発症リスク比からは使用者・非使用者間の新規自覚・発症率に有意差は認められなかった。細菌性腟症、外陰部掻痒症についてはどのリスク比も使用者・非使用者間の有意差を示さなかった。
泌尿生殖器感染症の新規発症に対する、温水洗浄便座使用の影響は認められなかった。既往に関しては温水洗浄便座使用者で既往者が多かったが、因果の逆転の可能性が考えられた。痔疾についても新規発症に対する温水洗浄便座使用の影響は認められなかったものの、男性において温水洗浄便座使用者で肛門周囲搔痒感の新規発症者が多かった。有症者においてどのような使用がなされていたかのさらなる確認が必要であるが、高頻度、長時間、高水圧での使用は避けるべきである可能性がある。
学術論文はEpidemiology and Infection Volume 146, Issue 6 April 2018 , pp. 763-770 に掲載
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