Q1. 身近な環境にいる、いわゆる病原体とはどのような生物か主なものを教えてください。
どこまでを身近と考えるかという点が難しいですが、感染症の病原体を大別し、一例ずつ紹介します。なお、一例とはあくまでも一例で、代表事例ではありません。
狂牛病や異型クロイツフェルト・ヤコブ病を引き起こす異常な蛋白粒子のプリオンが挙げられます。プリオンは健常な人間や動物にも認められ、なんらかの原因で感染型となります。牛肉では、感染型プリオンが存在する可能性のある脳や脊髄などを念のため除去します。
ウイルスは細胞に寄生して増殖する、蛋白質と核酸からなる粒子です。例えば、冬になると流行するインフルエンザのウイルスは、人や野生のカモ、家禽、豚などに寄生します。
土壌に生息し、酸素が存在すると生育できない偏性嫌気性細菌の破傷風菌が挙げられます。傷口から破傷風菌が入ると、その毒素が神経に作用して、けいれんや呼吸麻痺などを引き起こします。近年でも破傷風の致死率は約30%もあります。ちなみに、北里柴三郎は、この破傷風菌の嫌気性純培養を世界で初めて成功させました。
塩素消毒に強い耐性をもつ原虫のクリプトスポリジウムが挙げられます。ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、ネズミなどのほ乳類の腸管に寄生して増殖します。これらの動物の糞便に汚染された水を飲むことで激しい下痢を引き起こします。
寄生性の多細胞生物としてアニサキスが挙げられます。アニサキスは、サバ、サケ、タラ、イワシ、スルメイカなどに存在しており、これらの魚介類を生で食べると、アニサキスが胃壁や腸壁に食いつき、激しい腹痛や嘔吐が生じます。
最近では、近年新たに出現した感染症である「新興感染症」として、SARS(重症性急性呼吸器症候群)、MERS(中東呼吸器症候群)、エボラ出血熱、AIDS(HIV感染症)などが、そして、以前から存在していた感染症が環境の変化で再興した「再興感染症」として、結核、デング熱、マラリアなどが問題となっています。